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Posted: 3 Feb @ 8:27am

実体をもたない気持ちをみていたい

ストーリー

あなたはこのゲームを通して、4人の登場人物と会話をしていきます。
自他がはっきりと分けられたこの曖昧な滞りの中、あなたはどのように彼女らに関わり、会話をしていくでしょうか。
あなたは、あなたとは違うものとどう向き合い、分かち合い、あるいは関心を向けるでしょうか。

感想

結構、感想を書くのによい程度の言葉に困っているのですが。
そういう歯切れの悪い言葉の方が、何となく感想としては本質に近いところに触れているなと感じる作品でした。

ゲームとしては、4人の登場人物がそれぞれ3つのチャンネル(部屋のようなもの)に分かれていて、それぞれのチャンネルを好きな順番に訪れて話を聞いていく、という少し変則的ではありますがそこまで変わったものではないビジュアルノベルになっています。

彼女らとそれぞれ1対1の会話を進めながら、それぞれの他の人への気持ちであったり、趣味嗜好であったりを聞いていき、知っていく過程を通して物語は進行していきます。
登場人物たちをひとつの人格として向き合い、あるいは向き合わないことでひとつの物語をはぐくんでいくような、優しくて少し儚い感覚を覚えるよい作品だったと思います。

恋愛主体でないビジュアルノベルを好む向きの人には特におすすめできる作品です。

以下、ネタバレになる部分が多そうなので既プレイ向けとして伏せます。むしろレビューで書くべき内容ではないのかもしれませんが。











わたしたちがゲームをやる上で、「登場人物はあくまで情報である」と強く言い聞かせることはないにしても、あくまでも相手をいち人格として見ることは少ないと思うのですよね。それは、作劇上自分が自分として立ち会えないがゆえであったり、あるいはキャラクターの言動があまりにも記号的でステレオタイプ的であったりといった複合的な要因だったりするのですが、あくまでも虚構のものとして認識せざるを得ません。

わたしたちがほんとうにゲーム上の登場人物と「かかわりをもつ」とするならば、それは登場人物を現実とまったく同じであると混同することになります。しかし、それはあまりにも難しい。

この作品において登場人物は、作劇上でも「登場人物」でしかありません。自覚的に、プレイヤーに分かるように、「登場人物」としてのスタンスで語るわけです。すなわち、メタフィクションとして、こちらとあちらを認識したうえで語るわけです。わたしはこの建付けがかなりこのゲームに合っているなと思いました。

登場人物たちはつねに虚構に生きています。この物語においては、あまりにも衒いがなくそれを自ら表明しさえします。このある種潔い諦念が、物語を前へと転がす原動力になっています。その潔さが、登場人物たちの記号化された性格をかえってリアルにしているように思います。個人的な話では、プレイしているわたし自身も、二者関係やアイデンティティというものを認識させられたなと思いました。

よく考えればわたしたちは普段から自分ではなく他者と関わっていますよね。内心では腸が煮えくり返りながら笑顔で話すでしょうし、笑顔で別れを告げながら寂しがっていることもあるでしょうし、次に会うのを楽しみだと言いながら次の機会が永遠に来なければいいと思っていたりします。その裏腹な二面性のどちらが「私」でしょうか?

よく考えればわたしたちは自分の記憶を拠り所として生きていることが多いですよね。生まれてこの方、自分が生きてきた歴史を疑いの目で見たことなどない人の方が多いと思います。ある意味では当然です。でも、それが本当にあることだと確証をもって言い切ることができるでしょうか? ほんとうは記憶なんて曖昧なもので、数分前に置いた腕時計の位置すらすぐに忘れてしまう欠陥品なのに。

わたしと、少しステレオタイプに寄っていて、自分の記憶を情報であると断ずる「彼女ら」の差とは、実は虚構である自覚の有無だけなのかもしれません。そうであれば、勝手にわたしたちが認識している二者関係において、彼女らを「友だち」だと勝手に思うことも、「登場人物」としての私の真摯なあり方なのかもなと、そういうポエムも書きたくなるような作品でした。完全に他者を理解することはできないから。

あと、若干のPC知識(というほどではないが)を要する物語で、かつプログラミングについての話が出てくるところを見るに、プログラミングやプログラムへのラブレター的な意味もある作品なのかなと妄想しています。実際、プログラミング言語についての話なんかはちょっと笑いました(笑う内容ではないんですけど)。少し詳しい人は、一通りプレイした後にゲームフォルダ内のファイルを開いてみると嬉しい発見があるかもしれませんね。
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