VRChat は「何者にもなれる場所」であると同時に、「結局、何者かでい続けなければならない場所」でもある。リアルで背負った役割を脱ぎ捨てたつもりが、ほどなく VR のコミュニティ規範が新しい制服を仕立ててくれる。オフラインイベントやグループ通話が増えるほど、その制服は現実にも滲み出す。

「ネットの出会いは薄い」と揶揄されがちだが、VRChat がもたらすコミュニティはむしろ濃度過多だ。深夜二時間で互いの家族構成から幼少期のトラウマまで語り合い、三日後には現実の飲み会に誘われる。この圧縮された親密さが現実の時間軸に持ち込まれると、通常の交友プロセスはあっという間に色あせる。結果、“普通”の友人関係ですら手順が冗長に思えてくるのだ。その違和感を笑えるうちはまだ安全圏だが、笑えなくなったとき、リアルの孤立が静かに進行している。

現実の居場所をきちんとメンテナンスするには時間とエネルギーが要る。そのリソースを VR の深夜の語り明かしに全振りしてしまうと、比例してリアルの基盤がきしむ。面白いことに、基盤がきしむほど VR での存在感は増す。周囲が“現実ガタつき勢”を放っておかないからだ。人助けの名目で繋がりが密化し、救われるほど抜け出せなくなるという循環は、外から見れば悲劇だが、中にいると奇妙に居心地がいい。

アバター越しの賛辞は耳心地が良すぎて、現実で交わす「おつかれ」の湿度に耐えづらくなる。

どうか、このゲームで得られる偽の承認で承認欲求を過剰摂取し狂わないように気を付けて。このゲームはだれであろうと手を広げて迎えてくれる。現実の居場所を忘れずに。